02.23

中教審25年2月答申で見る、日本の大学の現状と課題|次世代の若者はどう学ぶか
2025年2月21日付日経に『大学に迫る「35年の崖」 進学者急減、50年には現在の7割 中教審答申「再編支援が必要」』と題した記事が掲載されました。
⇒ 大学に迫る「35年の崖」 進学者急減、50年には現在の7割 中教審答申「再編支援が必要」 – 日本経済新聞
当サイト「ライフステージナビ」、https://personal-lifestage.site/ のメインカテゴリーの一つが<LIFE STAGE>です。その中に<教育・受験・進学>というサブカテゴリーがあります。
このカテゴリーに関するテーマをこれから取り上げていくうえで、ちょうど良いタイミングだったので、この中教審(中央教育審議会)の答申を参考にすることにしました。
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中教審・中央教育審議会とは
文部科学省に設置された機関。従来の組織を平成13年1月6日に整理改組。
教育制度分科会、生涯学習分科会、初等中等教育分科会、大学分科会の4つの部会が形成されています。
審議会が担うのが、以下の業務。
(1)文部科学大臣の諮問に応じて教育の振興及び生涯学習の推進を中核とした豊かな人間性を備えた創造的な人材の育成に関する重要事項を調査審議し,文部科学大臣に意見を述べること。
(2)文部科学大臣の諮問に応じて生涯学習に係る機会の整備に関する重要事項を調査審議し,文部科学大臣又は関係行政機関の長に意見を述べること。
(3)法令の規定に基づき審議会の権限に属させられた事項を処理すること。
⇒ 中央教育審議会について:文部科学省
今回の答申は、大学分科会が担当する「大学及び高等専門学校における教育の振興に関する重要事項」に当たるもの。
「我が国の「知の総和」向上の未来像~高等教育システムの再構築」という仰々しいタイトルが付けられた答申です。

日本の大学の数と大学生の数
当記事の目的は、この答申の主な内容を確認し、当サイトの認識を基に、序論的に考えてみることです。
本題に入る前に、実際に今、日本には大学が何校あり、何人大学生がいるのかを、文科省による学校基本調査から確認します。
2024年の日本の国公私立大学数は、813校|2014年比15%増

※この資料は、以下から転載しました。
⇒ 令和6年度学校基本調査 確定値について
上記の表から、大学数だけ抽出したのが下表です。(2024年5月1日時点)
設置者別 | 大学数 |
---|---|
国立大学 | 86校 |
公立大学 | 103校 |
私立大学 | 624校 |
合計 | 813校 |
※この表は、ChatGPTが作成しました。
2024年の大学在学者数は、約250万人
次に、先の文科省データから、在学者数の数値だけを抽出して、以下にシートにしました。

※ これもChatGPT作成
今後の大学進学者数将来推計|文部科学省2024年公表データから
現在の大学数と学生数を先ず確認しましたが、では、今後どのように変化していくのか。
今回の答申の背景になっているのが、昨年2024年11月に文部科学省が公表した推計値。
その資料の要約グラフを以下に掲載しましたが、私なりに重要ポイントを要約しました。
●急速な人口減少に伴い、大学進学率の伸長を加味したとしても、2040年の各都道府県の大学進学者数の合計は40万人台。
●外国人留学生数が上昇すると仮定しても、現在の大学の入学定員の規模が維持された場合には、2040年の定員充足率は70%台。
●18歳人口が減少し続ける中でも、大学進学率は上昇し、大学進学者数も増加傾向にあり、当面60万人程度で推移。
●2026年以降は18歳人口の減少に伴い、大学進学率が上昇しても大学進学者数は減少局面に突入すると予測。
●2035年から毎年1万~4万人弱のペースで減少し、2050年には2021年比で3割減の41万人になると予想。

以上の前提の上で、中教審の答申内容を、これから整理・要約していきます。
なお、ここでは、以下の資料を利用しています。
1)我が国の「知の総和」向上の未来像~高等教育システムの再構築~(答申):答申本文です。
2)我が国の「知の総和」向上の未来像~高等教育システムの再構築~(答申)要旨:画像化資料です
「我が国の「知の総和」向上の未来像~高等教育システムの再構築」から
知の総和とは
数×能力=知の総和、とし、「知を形成・保有するする学生の数×知としての学生の能力」というわけです。
そもそも、単純に掛け算で算出できるものではないはず。
能力を平均値化していることで、審議会メンバーの「知」の質が、端から問われるのですが。
そういう視点・発想がないことが異様に思われるます。そして、この答申には相当の時間と労力が掛けられてもいるのです。
本稿の視点|高等教育システム再構築のロジック
初めにいきなり、答申を導き出した重点ポイントを私なりに手短に言えばこうなります。
・既に定員割れが起きている大学がある。
・これまでに認めてきた大学増設策に問題があった。
・少子化の進行に伴い、今後は、学生の進学者数が急速に減少していくことは間違いない。
・事業経営が困難になっている大学の再編統合が不可欠である。
・一方、日本の今後の社会を考えれば、学生の質を高めていくことが不可欠である。
・その実現のためには、「知の総和」向上の未来像を示し、高等教育システムを再構築する必要がある。
こうした前提に立って、果たして、どのような提言が行われるのか。
まず、答申の序論部分を以下に要約しました。
社会的課題を含んでいるため、ムダになることはない(というよりも重要な)内容なので、確認しておきましょう。
中教審答申「序論」要約
本答申は、急速に進行する少子化やグローバル化、技術革新などの環境変化を踏まえ、高等教育システムの再構築を目的とする。特に、質の向上、適正な規模の確保、社会的アクセスの確保を重視し、日本の高等教育の持続可能な発展を目指す。
現在、日本は急速な少子化や国際情勢の変化などの危機に直面している。2023年の出生数は過去最少を更新し、今後も減少が続く見込みであり、2052年には総人口が1億人を下回ると推計されている。少子化は産業・経済や文化の発展を停滞させ、特に高等教育機関の経営に深刻な影響を与えている。
世界的にもAIの進展、気候変動、国際的な分断などの課題があり、日本の高等教育機関はこれらに対応する重要な役割を担っている。しかし、急速な少子化により、中規模の大学が年間90校規模で減少する可能性があり、特に地方では質の高い高等教育へのアクセスが制限される危機に直面している。このままでは、若者の学ぶ機会が奪われ、日本社会全体の活力も失われかねない。
こうした状況に対応するためには、従来の発想を転換し、高等教育のあり方を抜本的に見直す必要がある。国、大学、地方自治体、産業界、初等中等教育関係者、進学者や保護者など、社会全体が高等教育の重要性を再認識し、新たな視点で取り組むことが求められる。本答申が、日本の高等教育と社会の未来を導く指針となることを期待する。
筆者の声|発想の転換がくみ取れない答申内容と表現
「地方では質の高い高等教育へのアクセスが制限される」。この表現、何とかならないものでしょうか?
「地方では質の高い大学教育を受ける機会がなくなってしまう」でいいのでは?
「従来の発想の転換」という言い回しも「耳タコ」。
発想の転換ができていれば、「我が国」とは書かないでしょうし(わが国)、「知の総和」というのも、ダサく、旧いイメージを抱かせます。
項目のすすめ方で、片かなで、ア、イ、ウ とするのもどうなのか、と。これも旧い。
それから、大学教育を、高等教育というグループで語るのは、どうでしょう。
また、高等学校という段階と呼称があることから「大学」「大学院」のグループは、別呼称、別ランクで政策を形成していくべきではないかと感じます。
但し、高等学校の在り方を、より大学に近づけていく政策を打ち出していくなら、別の考え方もあってよいかとは思います。
もう一つ、「未来」という言葉も、あまり簡単に使ってほしくない。
問題提起と対策提言の答申ならば、いつまでにどういう形にするか、目標期限を設定すべきであり、決して、漠然とした「未来論」としてはならないと考えるゆえです。
中教審答申の構成
この答申は、次の4つの課題で展開しています。
1.今後の高等教育の目指すべき姿
2.今後の高等教育政策の方向性と具体的方策
3.機関別・設置者別の役割や連携の在り方
4.高等教育改革を支える支援方策の在り方
この順番に従って、本稿の主意に沿い、メリハリを付けて以下要約していきます。
1.今後の高等教育の目指すべき姿|キーワードは多様性と地方創生
このテーマの内容を1枚のシートに詰め込んだのが、以下の資料です。

この資料では、内容を読みづらいので、以下に本文を基に要約しました。
1)直面する課題とこれまでの高等教育政策
日本は少子化による大学進学者数の減少、超高齢社会の到来、デジタル競争力の遅れ、地方創生の課題に直面している。社会の変化に伴い、高等教育の学びの質向上や留学生確保、研究力向上、デジタル化推進が求められる。従来の政策は量的拡充や質の向上を目指してきたが、現状を踏まえた新たな対応が必要である。
2)目指す未来像
持続可能な社会を構築し、若者に多様な学びの機会を提供することが重要である。日本の発展には、AIやデジタル技術を活用し、イノベーションを創出する人材の育成、多様な人材の活躍、国際社会での影響力向上が不可欠である。
3)育成する人材像
社会の変化に対応し、AIやデジタル技術を活用できる能力を持つ人材を育成する。求められる資質として、主体性、リーダーシップ、創造力、課題解決能力、論理的思考力、表現力、コミュニケーション能力などが挙げられる。さらに、生涯学習を推進し、社会人の学び直しの機会を確保する。
4)高等教育の目指す姿
「知の総和」の向上を目指し、教育と研究の機能を強化する。高等教育機関は、学びの機会の公平性を確保し、多様な学生が集い、成長できる場とする必要がある。特に、地域の教育機会の維持、大学間の連携、研究力の向上が課題となる。
5)高等教育政策の目的
高等教育政策の目的として、「質(Quality)」「規模(Size)」「アクセス(Access)」を掲げる。
・質: 学生の成長を促し、教育・研究の質を向上させる。
・規模: 18歳人口の減少を考慮しながら、適切な規模の高等教育機会を確保する。
・アクセス: 地域・経済状況によらず、高等教育を受ける機会を均等に提供する。
6)重視すべき観点
① 教育研究の強化
・AI・デジタル技術を活用した教育の推進
・文理融合教育の充実
・グローバル人材の育成
② 学生支援の充実
・社会人や留学生を受け入れ、多様性を向上
・経済的支援を拡充し、学びの機会を保証
③ 高等教育機関の運営基盤の確立
・大学の多様性を確保し、地域連携を強化
・資金確保のための新たな財源確保の取り組み
④ 社会との連携強化
・産学連携を深め、即戦力となる人材を育成
・地方創生のために地域の課題解決に貢献
・高校教育との連携を強化し、円滑な進学支援を実施
今後の高等教育は、「質の向上」「適正規模の確保」「アクセスの保証」を軸に、高度な人材を育成し、研究を推進しながら、持続可能な社会の実現に貢献することが求められる。
筆者の声|「重視すべき4つの観点」が語るこれからの課題
やはり、「アクセス」は「機会」で良いと思いますね。
最後に示された① 教育研究の強化 ② 学生支援の充実 ③ 高等教育機関の運営基盤の確立 ④ 社会との連携強化 この4つの視点からの重点課題への取り組み。
これが、この答申の集約した課題といってよいのでは、と感じました。
以降の、2.3.4.はその具体的な展開についての解説という位置づけでよいのではないでしょうか。
2.今後の高等教育政策の方向性と具体的方策|大学設置基準・認証評価制度改革は可能か

ここでの要約方法は、参考用に提示した資料においての整理方法と異なっています。
こちらの方が、分かりやすいと判断したためです。両方を照合して確認頂ければと思います。
次項以下の整理方法についても同様です。
1)教育研究の「質」の更なる高度化
①学修者本位の教育の推進
・学生一人ひとりが能力を最大限に発揮できる環境を整備。
・多様な価値観を持つ学生の交流を促し、教育研究の質を向上させる。
・厳格な成績評価と履修指導を強化し、卒業認定基準を明確化。
②新たな質保証・向上システムの構築
・大学設置基準や認証評価制度を見直し、教育の質保証と負担軽減を両立。
・教育成果を数値化し、社会的評価を促進。
・不適切な教育機関の撤退を推奨。
③多様な学生の受け入れ促進
・留学生や社会人の受け入れを拡大し、学びの場の多様化を推進。
・18歳中心主義を見直し、多様なバックグラウンドを持つ学生が学べる環境を整備。
・社会人向けの学び直しの機会を拡充し、キャリアチェンジやスキルアップを支援。
2)大学院教育の改革
①博士人材の育成・活躍の促進
・博士課程進学者の増加を目指し、社会でのキャリアパスを広げる。
・学士・修士・博士の一貫教育を推進し、スムーズな進学を支援。
・研究力向上のため、大学院教育の質を高める施策を強化。
②幅広いキャリアパスの開拓
・産学連携を強化し、博士人材の社会での活躍機会を拡充。
・企業の採用促進や待遇改善を推進し、大学院進学の魅力を高める。
・オンライン教育の活用による柔軟な学びの場を提供。
3) 研究力の強化
①研究者の環境整備
・教育研究に専念できる体制を構築し、研究パフォーマンスを向上。
・研究設備の戦略的導入や共同利用を促進。
・研究時間の確保や管理業務負担の軽減を推進。
②国際競争力の向上
・優秀な外国人教員・研究者の採用を強化し、国際的な研究ネットワークを拡大。
・卓越した研究成果を生み出すための大学間連携を推進。
4)情報公表の推進
①大学の透明性向上
・高等教育機関の教育内容や研究成果を積極的に公開し、説明責任を果たす。
・学生の学修成果を可視化し、社会的評価を高める。
・統一的なデータプラットフォーム「Univ-map(仮称)」を構築し、教育機関の比較を容易に。
5)高等教育の「規模」の適正化
①収容定員の適正化
・18歳人口の減少を踏まえ、高等教育機関の規模を見直し。
・経営の安定性を考慮し、新規大学の設置基準を厳格化。
・地域ごとの人材需要を考慮した大学再編や統合を推奨。
②高等教育機関の機能強化
・大学間の連携・再編を推進し、地域に必要な人材育成を強化。
・産業界や地方自治体と連携し、実践的な教育プログラムを開発。
6)高等教育への「アクセス」確保
①地理的観点からのアクセス確保
・地方の高等教育機関の維持・活性化を支援し、地域連携を強化。
・サテライトキャンパスやオンライン教育の活用により学びの機会を拡充。
・地域連携プラットフォームを活用し、地方創生と連携した高等教育の推進。
②社会経済的観点からのアクセス確保
・経済的理由による進学断念を防ぐため、奨学金制度や学費支援を拡充。
・民間資金の活用を促し、個人負担の軽減を図る。
・低所得世帯や障害者への支援を強化し、教育機会の公平性を確保。



3. 機関別・設置者別の役割や連携の在り方|高等教育機関に高等学校が入らない怪
高等教育の発展には、各高等教育機関が持つ特色や強みを最大限に生かしつつ、制度的な役割を再構築する必要がある。特に、大学・専門職大学・短期大学・高等専門学校・専門学校といった機関別の役割を明確にし、国公私立の枠を超えた連携強化を図ることが求められる。
1) 機関別の役割
各高等教育機関の特性を生かし、役割を明確化しながら、社会の変化に対応することが必要である。
①大学(学士課程)
大学は学術の中心として、新たな知の創造と社会の発展に貢献する役割を担う。教育・研究の高度化、国際的通用性の確保を進めながら、社会の要請に対応する機能強化が求められる。
②専門職大学・専門職短期大学
実践的な職業教育を通じ、成長分野や地域の担い手となる人材育成を目指す。産業界との連携強化や社会的認知度向上が必要である。
③大学院・専門職大学院
高度な専門知識を持つ博士人材の育成と、イノベーション創出の拠点としての機能が求められる。博士課程の社会的価値を向上させるとともに、リカレント教育の充実を図る。
④短期大学
地域密着型の教育機関として、専門的職業人の養成を担う。大学との接続強化や、多様な学生(社会人・留学生)への対応を進める。
⑤高等専門学校
技術者教育の拠点として、理論と実践を融合した教育を提供。成長分野の人材育成や、大学・大学院との接続強化、国際化推進が課題となる。
⑥専門学校
実践的な職業教育を柔軟に展開し、社会や産業界のニーズに即応する。教育の質保証、地域産学連携の強化、社会人・留学生の受け入れ促進が求められる。
2) 設置者別の役割
歴史的背景を踏まえ、国立・公立・私立大学の役割を整理し、それぞれの特色を生かした機能強化が必要である。
①国立大学
国家の基盤となる研究・教育の実施、社会のニーズに応じた多様な学問の継承・発展、高等教育の機会均等の確保が求められる。今後は、定員規模の適正化、学問融合領域の強化、国際化促進、大学間連携・再編の推進が課題となる。
②公立大学
地域のニーズに応じた人材育成や、地域産業・文化への貢献が求められる。地域活性化や行政課題の解決に貢献する教育研究の推進が重要であり、定員規模の適正化も検討される。
③私立大学
建学の精神に基づき、多様な教育研究を推進。学士課程の約8割を担い、高等教育のアクセス確保に貢献してきた。今後は、規模の適正化、教育・経営改革の推進、他大学との連携強化が求められる。
3) 機能や特性等に着目した政策の重視
各大学の特色に応じた教育・研究の強化が求められる。総合的な教養教育を重視する大学、専門職業人養成を行う大学、研究を重視する大学など、機能別の分化を進めつつ、連携の促進が重要である。
政府としても、設置者の枠を超え、各機関の機能や特性に応じた支援を強化し、高等教育の質向上を図る必要がある。

筆者の声|高等教育改革に不可欠な高等学校改革
この項は、今回は、さらっと確認するにとどめてよいかと思いますが、一つだけ、重要な点があります。
というか、高等教育改革の起点になる課題ですから、見逃すことは本来できないのです。
それは、高等学校の在り方。
現在、高校の授業料の無償化が、今国会の最重要課題の一つになっていますが、それよりも、高等学校改革の必要性を議論し、その上で無償化云々を議論すべきなのです。
少なくとも「高等」と読んでいる学校階層であり、今後の労働力人口の減少なども視野に入れると、そこでの専門性の教育・学習をどうするのかを再考すべきです。その上での、短大・専門学校・高専・大学との連携とその在り方を十分議論・検討し、改革を進めるべきでしょう。
今回は、ここまでの問題提起としておきます。きわめて当然の、発想の転換の必要性の提起でもあります。
4. 高等教育改革を支える支援方策の在り方
1)基本的な考え方
①高等教育の価値
・高等教育改革を支援するにあたり、「社会は高等教育の価値を認めているのか」を再考する必要がある。高等教育は、個人の成長のみならず、社会全体の発展に寄与するものであり、知識創出やイノベーション、人材育成の役割を担う国力の源泉である。
・高等教育への投資は、個人、企業、社会に対して高い収益と恩恵をもたらす。学生は高度な知識と技能を身につけることで、生産性の向上、安定した雇用、社会的地位の向上を実現できる。企業は高等教育で育成された人材を活用し、共同研究を通じて技術革新を促進できる。さらに、社会全体としては、健全な民主主義の形成、生産性向上、税収増加、社会的コスト削減といった恩恵を受ける。
・高等教育が持つこのような「正の外部性」を考慮し、単に市場原理に委ねるのではなく、適正な規模と質の確保を社会的責任として取り組むべきである。
②高等教育への信頼
高等教育の価値が広く認識されるためには、社会的信頼の確立が不可欠である。教育を受けた者が社会で活躍し、産業界や地域社会と連携しながら高等教育機関が貢献を示すことが求められる。そのためには、
・学生の満足度向上と教育研究の高度化
・それぞれの大学が持つ強みや特色を活かした活動
・教育研究成果の透明な情報公開 を推進し、社会の理解と支援を得る努力を継続することが重要である。
③必要コストの算出
高等教育機関は、財政状況の厳しさや施設・設備の老朽化などの課題を抱えている。質の高い教育・研究環境を維持するためには、安定した財務基盤が必要であり、そのために以下を進めるべきである。
・社会的信頼の獲得による公的・民間資源の確保
・教育コストの可視化と社会的共有
・各機関における情報公開の徹底
・国による必要コストの明確化と社会への説明
④高等教育投資の在り方
高等教育への投資は「未来への先行投資」であり、大胆な資金投入が求められる。OECD諸国の例も参考にしながら、以下の施策を検討するべきである。
・基盤的経費助成: 教育研究の基盤を支えるための公的資金
・競争的資源配分: 優れた研究や特定分野の強化
・民間からの投資: 企業や地方公共団体からの寄附金や投資の拡大
また、2040年以降を見据え、公財政支援、社会からの投資・支援、個人・保護者負担の適正なバランスを検討し、持続可能な財務構造を構築することが必要である。
2) 今後取るべき方策
①短期的取組 (2~3年以内)
・公財政支援の拡充 (基盤的経費助成、競争的資源配分の強化)
・企業や社会からの投資・支援を呼び込む制度の整備
・学生の授業料負担軽減のための支援制度の拡充
・高等教育機関の財務基盤強化と経営の効率化
②中長期的取組 (5~10年以内)
・高等教育の持続可能な発展に向けた財政構造改革
・教育コストの明確化と負担の見直し
・設置者別から機能別への資源配分転換
・新たな評価制度の導入と運用
これらの取組みを通じ、高等教育機関の役割を強化し、日本社会全体の成長と持続可能な発展を支える環境を整備する。

筆者の声|高等教育投資にEBPMを求めることの是非
ここも、確認レベルで今回はとどめましょう。
コスト問題、財源問題は、また別の機会にと思います。
ただ、一つだけ申し上げておくと、研究者が好きな、あるいは日経を含めてメディアも好きな、EBPM(Evidence baced Policy Making)は、あと理屈の、非現実的・理想論的手法だということです。
「仮定のお話には、お答えできない」のが、一般的な事情なのです。
もちろん、かと言って、何も、誰も責任を取らなくていい、という話でもありません。
おわりに
本答申は「知の総和」の向上を目指し、教育研究の質の向上、適正な規模の確保、社会的アクセスの確保を掲げている。高等教育の持続可能な発展には、公財政支援、社会からの投資・支援、個人・保護者負担のバランスが不可欠である。
18歳人口の急減が予測される2035年までの残り10年間を「たった10年」と捉え、国は制度改革や支援措置を早急に進める必要がある。高等教育機関も社会との連携を強化し、教育研究の質を高めるとともに、透明性のある情報発信を行うべきである。
2040年までに大学進学者数が約27%減少すると見込まれる中、国は今後10年間で必要な制度改革と財政支援の政策パッケージを策定し、速やかに実行することが求められる。これにより、未来の社会を支える人材が、多様な価値観を持ち、主体的に学び、世界に貢献できる環境を整えることが期待される。
以上が、答申の全文を要約したものです。
未来志向はもちろんあるべきモノ・コトですが、ほぼフリーで大学新設と運営を認めてきた?放置した?文科省。
これからは、どのように大学事業の統括を、掲げた理想を実現しつつ、行っていくのか。
無論、この答申では、読み取れません。いままで中教審が行ってきた答申が、その通り実行したことで、大きな成果、中くらいの成果、そして小さな成果も上げた。そういう例は、恐らく挙げられなかったでしょうから。
いや、ありました。大学の数は間違いなく増えた。しかし・・・、というわけです。
日経記事の重要ポイント
折角ですから、冒頭紹介した日経記事の要約を、箇条書き形式で整理しました。
①文科省の「大学の自治」尊重政策の失敗と政策転換
・2003年に大学の設置審査を緩和し、新設を原則認めない抑制方針を廃止。
・教育や経営状況を第三者がチェックする認証評価制度をスタートさせ質の低い大学が自然淘汰されることを期待。
・大学数は2024年813校で20年前比15%増加したが、私立大経営状況は悪化傾向に。
・2024年度は四年制私大の59%が定員割れ。
・10年後を見据え、政策を転換し、実効性のある改革案を打ち出す。
・再編・統合や縮小、撤退を支援することが必要。
・経営難の私大に改善計画を提出させ、場合によっては助成金を減らす対策検討へ。
②各校の役割の明確化と教育・研究質の向上へ
・大学の淘汰により各校が担う役割は一層重くなり、教育・研究の質を向上させる重要性。
・研究大を中心に学部定員を減らし大学院へ振り向けるよう促す。
・学部・修士の5年一貫教育の拡充を提案。
・在学中の学生の成長具合など、教育の質を測る指標に基づく新しい認証評価制度の導入を盛り込み。
・地方を中心に大学の撤退が相次ぐ可能性があり、進学機会の確保も重要。
・サテライトキャンパス設置など都市部から地方への動き促進。
・設置認可や私学助成金の交付条件の厳格化などに取り組むべき。
③少子化対策との関連性と厳しい管理の必要性
・2025年度から、3人以上の子どもを扶養する多子世帯への学費を巡る支援が拡充。
・これにより、国公立大の多くは授業料と入学金の家計負担がゼロとなり、私立大も負担減に。
・学費の無償化により意欲や能力のある人材が大学で学べる意義は大きいが、公的支出の拡大が質の低い大学の救済を招き「延命策」になる懸念も。
・そのため学業成績の要件を厳しくする方針だが、厳格な運用と無償化の効果検証が不可欠。
項目化と具体策の整理は、私の感覚で行いました。
これから<教育・受験・進学>ステージ問題にどう取り組むか|当サイトの基本方針として
<教育・受験・進学>を一つのライフステージとして捉え、、現役世代と次世代、親と子の関係を通して、これから当サイトで何度か取り上げていきます。
文部科学省は今夏までに今後10年ほどの改革案の工程表をまとめるとしています。それはそれとして、無論注視すべきです。
しかし、何を置いても問題となるのは、中教審の答申内容や、これを受けて、実際の各大学が、受験者や親御さん、高校などに対して、どれだけ具体的に運営方針などを説明していくか、伝えていくかということ。
そのためには、高校在学中に、それらの説明や相談のための時間やカリキュラムを設定する必要があります。
現在、それができているのかどうか。
当然、動画を自由に視聴できるようにし、相談も可能な状態にしておくことが不可欠です。
これがしっかりしていれば、親も生徒自身も、個人個人が自分の意思で、いつでも自由に閲覧できることになります。
しかし、それ以前に、個々の大学が、自主性・主体性を持つことは当然ですが、中教審が望み、求める在り方が、1校、1校にどこまで具体的に、理想的に描かれ、現実的に、運営・実践されるか?
評価認証基準とその運営が、望ましい在り方で行われるのか?

地方大学の要件構想|次世代の若者はどう学ぶか、その選択肢としてのアイディア
答申の中で、「地方」という用語が頻繁に出てきています。
特色を強く持つ、専門分野に特化した大学であるべきなのは、当然のことでしょう。
その特徴が、学生を呼ぶ魅力があるものなのは必須。
地域の資源を活かしつつ、謳う専門分野に興味関心をもつ学生を、全国各地から呼び寄せることが可能であり、かつ関心を持つ海外の人材・留学生も合わせて呼ぶことができる。
そうしたマーケティング視点での大学を再構築もしくは新たに構築すべきと考えます。
ただ、それだけでは不十分で、入学し学業に励む学生の住居・住まいを不安がないように提供できること。
在宅を含め、インターン就労も含め、地位振興にも結び付く形も備え、ある程度働きながら(実践しながら)、学ぶことができる環境を提供することが不可欠です。
それは、地域社会との連携・関係を大学を一つの起点として形成していく活動でもあります。
ネット社会、AI社会ゆえの可能性を持つ取り組みとなるでしょう。
こうした専門分野は、ほとんどの他都道府県にもその資源があり、サテライト機能を持たせること、その地方大学を起点としてネットワーク化できます。
一方、一般教養プログラムは、海外のプログラムを含め、全校共通の履修プログラムをネットで提供し、多様化・グローバル化を形成。当然、効率化・質の向上も実現可能です。
では、どんな専門分野があるか、設定・想定できるか?
観光、伝統工芸、料理・食、各種文化、エネルギー・資源、農業・林業・畜産業・水産業、まだまだ、本当に多種多様にアイディアレベルで想像・創出できるでしょう。
学生時代・学生生活における自分独自のドメイン形成を、どんな大学で、何を学ぶか、実践するかで具体化する。
そういう地方大学が再構築、もしくは新たに創設されることを願っています。
問題は、先述した学生数の確保、学生の生活・学習環境の整備、そして事業収益化システム構築。
管理システムについては、全学共通システムを採用するのは当然です。
全学とは、当然、全国すべての大学、を意味します。
こうした諸条件についての構想化も、各大学の責任課題としてもよいでしょう。学生が担うことも自然のことです。
地方大学としてのドメイン、大学生としてのLIFE STAGE 上のドメイン。
それぞれのドメイン形成と独自ドメインの構築が、これからの大学事業確立の必須命題となります。
あなたはこれからの大学を、どう考えますか?
あなたは日本の大学にどのような未来を期待しますか?
大学が地域社会に貢献するためには、どのようなことが重要だと思いますか?
そして、次世代の若者が学ぶ上で、どのような選択肢が必要だと思いますか?
この機会にこうした課題に関心を持って頂ければ。
そして、ご自身やご家族の大学進学や大学選択に結びつけて頂ければとも。
当サイトでは、これからも継続して考えていきます。

※ChatGPT作成画像です。
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