働きやすい介護職場とは|介護労働安定センター2024年度最優秀賞受賞施設から考える

先に、介護施設での介護ロボット導入とAI活用について、以下の記事を投稿しました。

この記事投稿の翌日、2025年2月6日に、地元紙の中日新聞に、「働きやすい介護職場」として、東海市の特養「レモンの樹東海」が最優秀賞を受賞という記事が掲載。
サ高住と特養両方での義母の介護経験で、介護に興味関心が生じた私。
先述の介護ロボットなど、介護に関する情報は、シニアの方にも、親がいる現役世代の方々にも、広く知って頂きたいと考えています。

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この表彰は、「公益財団法人・介護労働安定センター」が毎年、理事長表彰として行っているもの。
⇒ 公益財団法人 介護労働安定センター

介護施設と介護スタッフのための団体といえますが、介護を必要とする方々にとっても、注目してもらえばと思います。
センターが行っている事業の一つに、「介護労働実態調査」がありますが、その内容については別の機会にお伝えしたいと思います。

⇒ 令和5年度介護労働実態調査 事業所における介護労働実態調査結果報告書

「レモンの樹東海」運営の社会福祉法人「檸檬」の理念

冒頭述べた、昨年度の最優秀賞受賞の、愛知県東海市の特養「レモンの樹東海」は、社会福祉法人「檸檬」が運営する施設。

1)理念:介護を未来にわたって支えるため、働きやすい、働きがいのある職場づくりに貢献します
2)行動指針:
 ・介護の魅力と最新動向を積極的に発信します
 ・介護現場の多様なニーズに即した総合的な支援を実施します
 ・専門性に裏付けられた質の高いサービスを提供します
 ・全国ネットワークを活かし、介護労働に関する中核機関として、地域と共に事業を展開します
 ・コンプライアンス・公共性を基本として、自己研鑽に努め、信頼される組織を目指します
を掲げています。
そして、「私たちは、介護のプロを応援します」と行動宣言をしている機関。
⇒ CI(法人理念) | 介護労働安定センター

2つの大きな柱となる改革とその成果とは?
2020年から3か年計画で労働環境改善とICT化に着手したこの改革。
本題の、「特養レモンの樹」の表彰理由となった改革の要点を、以下に簡潔に整理しました。

1)職員の離職率改善のために取った、人を大切にする人事政策を推進

・コロナ禍にも特別有給休暇制度を導入
・職員交流の同好会に補助金を支給
・公正な評価制度を導入し、給与・賞与に反映

2)介護作業の効率化や間接事務作業のシステム化などのICT化を推進

・生成AI活用:入居者の状態に関する自動音声記録、勤怠管理作成などにより、業務負担の軽減化を実現

3)働き方改革、その成果は

・2020年度離職率60.3%が、2024年度8.5%と劇的に改善
・1人当たり月間平均残業時間が、7.2時間から2.2時間に低減


大きな改善成果が出た理由|事業の1か所集中の規模のメリット

上記のように、比較的短期間で、著しい成果が創出された要因。
同法人の事業が、1か所の規模の大きい施設に集約されていたことが想定されます。
4階建ての多層階建物施設で、
特別養護老人ホーム、ショートステイ、デイサービス、居宅介護支援の4種類の介護サービスを提供。
当然、そのため、介護スタッフも多数必要になるが、1か所に集中・集約できるため、改善の効果が出やすい。
いわゆる規模のメリットを享受できる条件の一つです。

もちろん、多層階ゆえの非効率性もありますが、要員配置を機動的に、柔軟にできるメリットがあります。
但し、その定着策を含め、福利厚生政策や人材育成なども並行して行うことで、それも可能になります。
表彰対象は特養となっていますが、特養のみ単独で運営しているわけではなく、複数のサービス事業を一体のものとして運営管理できることは最大の強みと言えるでしょう。

※2つのフロア構成の画像は、同事業所のHPからお借りしました。

⇒ 社会福祉法人檸檬 | 「会えてよかった。」~人は出会いで人となる~

規模のメリット、もう一つの例|多数事業所展開の大手事業者に利

規模のメリットの別の形としては、大手介護事業者が、多数の施設を運営することによる、人材の運用管理、ICT活用システムの共有、管理コストの低減を期待できることがあります。
その事業所は、全国に展開されているので、ご存じ方も多いでしょう。
ここ10数年来の介護事業者のM&Aは、こうした背景と条件に基づくものといえます。

しかし、1か所で相当規模の事業所ならば、簡単にこうした成功・成果を得ることができるとは限りません。
規模が大きいがゆえに、一つ悪循環になれば、他のサービス事業にも悪い面が波及します。
表彰を受けた事業所も、改善・改革に取り組む決断をする前には、相当厳しい状態だったのです。
多層階施設ですから、スタッフは、階段やエレベーターを昇ったり、降りたりと大変だったでしょう。
当然特養やショートステイは、24時間体制ですからなおさらです。
離職率が60%超、月間の残業時間が一人当たり7時間超。
この残業時間には含まれない、届けられないサービス残業も当然含まれていたのではないかと。
コロナ禍で一層厳しい状態に。
急改善・改革の決め手は、やはり法人トップの危機観に基づく、決断にあったと言えるでしょう。

改善取り組みプロセスのスタッフの努力とトップの決断にこそ成功要因

報道や自事業所のHPでは、結果と表彰を受けたことの紹介しかありませんが、その取り組みプロセスこそ大切で、それも早々簡単なことではなかったはず。
それらの取り組み事例にこそ、非常に重要かつ不可欠な要素・要因・原因があるわけです。
一応、流通サービス業での業務改善や人事・人材管理などのコンサルティングの経験があるので、その奮闘ぶりが想像できます。

ここまで成功を積み上げ、良い循環を創り上げることができたのは、スタッフの皆さんの努力の賜物。
地域の評価も一層高まり、支持される事業所の地位が確立されつつあるのではとも推察します。
複数の介護サービス事業を、ワンストップで提供できることは強みです。表現は悪いですが、特養入所希望者が、他の介護・介助サービス利用者から出てくるマーケティング・システムもできています。
ただ今後、事業者が、法人としてどのような運営方針をとっていくのかが課題になるのは、介護事業に限らず、どんな事業経営においても共通のテーマとなりますね。

中小零細介護事業所の厳しい現実

これまで述べたように、今回の表彰事業所の例は、どの介護事業者・事業所がその気になれば、どこでも実行・実現可能なものとは言えないと思います。
デイサービスを1カ所、あるいは数カ所レベルで運営する事業所など、中小零細介護事業者には、介護スタッフの高齢化や人材不足、コスト負担の難しさなど、改善に取り組む資源が不足しています。
こうした厳しい実情は、この20年以上、介護業界が慢性的に抱える課題です。
今回紹介した改善の成功事例を刺激として、なんとか自事業所の改善に取り組もうとする事業所トップ・幹部が増えるとよいですね。
冒頭の「介護労働安定センター」がその旗振り役として、そのための種々の活動を展開しており、業界に良い影響を及ぼすことにも期待したいと思います。

厳しい状況が変わらないことに関しては、別の機会に、これも毎年恒例として報じられている、東京商工リサーチによる最新の業界動向を紹介し、確認したいと思います。
⇒ 東京商工リサーチ

※こちらも、同HPから転載させて頂きました。受賞、おめでとうございました!

なお、当サイトでは、介護の現場で頑張ってくださっている方々の応援もしていきたいと考えています。
お役に立つ情報を提供できるように・・・。

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